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【6/22】Viraja Aupamya九日間感想連載◆8日目『Doomsday clock』

 
 ものすごい勢いで一週間が終わっていった。
 そう感じる時は大抵やりたいことができていない時。
 さすがにこれほどまで時間がなくなるとは想定外だった……
 
 お陰様でそろそろ原稿の足音が忍び寄ってきたところで、8日目。
 
 
『Doomsday clock』
 詩所さん
  
 初見の印象と本来のエッセンスが微妙に乖離した、意外性のある作品。
 頽廃的でモノクロと化した未来世界――
 私の語彙ではその程度の表現しかできませんが、これ単体では目立たない。
 なるほどモチーフ自体はよく見るものですし、
 その中で活躍するキャラも、確かに組み合わせこそ珍しいものとはいえ、
 「珍しい組み合わせ」というモチーフ自体もまた「よく見るもの」であり、
 したがって真にこの作品を尖らせるには至っていない。

 私の中で痛烈な印象に残ったのはクライマックスの妹紅の見せ場ではなく、
 無機質な端末を携えたメディスンが、返事のない世界に向けて
 電子端末を手に宛名のないメッセージを発信し続けていたシーン。
 桐生さんの作品と違い、遺構しかりその中に出現するグッズしかり、
 この作品で描かれる未来は比較的近距離にあるものを予感させます。
 現代世界の延長線上に容易に想像できる世界観、
 二人だけがその世界を闊歩することについて、しかし背景は語られない。

 見えてくるのは、極めて短期間の内に世界が破滅の坂道を転がり落ちて
 「デカダンス」へ収斂し、地下室へ押し込まれるように二人が行き会って、
 結果として否応のないコミュニケーションへの希求が共鳴し合い、
 場当たり的な必要性に迫られて、受動的に造り上げてしまった――絆。
 消極的な二人の、一見には売れ残り処分品の抱き合わせの如き絆。

 本作に描かれる、そんなちゅっちゅもキャッキャも欠落したこの絆、
 しかし一読者としてこれだけは保証したい。
 本作における二人の少女の絆は、互いに受動的であるが故に本質であり、
 かつ消極的であるが故に純粋なのです。


 とっても分かりにくい表現を敢えてさらに分かりにくくするため、
 少し話を逸らします。例えば我々の、現代のコミュニケーション。
 人と言葉を取り交わす手段も余地も機会も我々は目下失っていません、
 しかしネットワークツールが発達する中で、
 ハブのシステム部分だけが格段に進化した結果、
 好印象、好都合な人のみを視界に選ぶことが出来るようになった。
 つまり、選択肢のあるコミュニケーション。
 必然、そうでない相手とのコミュニケーション能力は著しく衰退する。
 
 ……なぜこんな社会的な話を持ち出してきたのか?
 それは、この作品に描かれたコミュニケーションに対する問題提起が、
 解説文に書かれたものとは少し違う形で私には感じ取れたことを
 敢えて私の感想として、エゴい文章に残しておきたかったからです。
 死ぬに死ねない、生きざるを得ない二人の接近遭遇。
 都合良く濾過された現代の人付き合いと異なる、好きか嫌いかを超越した
 ひどく切迫した触れ合いに私は胸を震わされるような憧憬を抱きます。
 選択的コミュニケーションという概念が死滅した世界で、
 彼女たちは互いに、相手が存在することの嬉しさに甘く依存している。

 うまく表現できないのですが……
 そこに感じ取れるのは、極めて古代的で純粋化されたよすがの姿です。
 「私じゃない何か」が存在すること自体に対する、幸せな愛しみ。
 たとえ狂おしいほどの情愛表現がなくとも、絆としか言い様のないものが
 モノクロームの世界でカラフルに編み出されている。

 本作は一見、あの象徴的なラストシーンに代表されるとおり、
 救いのない世界に一条の希望を垣間見せる物語に見える。
 しかし作者が充分に自己の作品世界を反芻してくれたお陰でしょう、
 恵まれきった現代人には到底及びもつかない、
 一度荒廃しきった社会の中に胚胎するコミュニケーションの卵細胞が、
 この作品全体にありありと具現している。

 ふう、さて、冒頭にようやく話が繋がります。
 その清冽なエッセンスに読者が憧憬を抱く時、
 この物語の世界が現代世界から近距離に描かれていることは、
 きっと偶然ではなく、明確な重みを持ってくるのです。
 解説文にあった「この作品に描かれた希望」とは、
 妹紅が打ち破った暗雲の彼方に覗いたモノではない。
 何気なく見えるシーンが積み重なって隠しきれず漂ってくる、
 お互いに対する「居てくれて、嬉しいな……」の心。
 この世界において希望とは、疑いなくそれだと思われます。
 
 悲しくも美しい物語。最後に、敢えて逆側から解釈すると――
 世界が衰微した原因も、メディのメッセージに応答がない原因も、
 発達しすぎた選択的コミュニケーションの末路で人々が失った
 大切なものの存在を、示唆してくれているように思えるのでした。

 ◆

 このクラシックな作者に拍手!
 というわけで明日はいよいよ最終日、『EXTRA』と、本著全体への感想です。
 長きにわたってお付き合いありがとうございます。
 明日は思い残すことのないよう、文章をぶつけますよ。
 
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