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【10/16】 「さよなら妖精」(米澤穂信)

 今日はネタバレ特に注意。
 一応肝心なところは伏せてありますけども。
  
 ここ最近続いたラノベレーベルからいっとき離れて、
 今日は版型もB6と少々大きくなりました。
 私が触れるのは初めての作家さんになります、米澤穂信。
 前々からその評判は聞いていたのですが、
 最初に名前を知ったきっかけは今日感想を書く「さよなら妖精」でした。
 その後古典部シリーズがアニメ化されたので、
 今となって一般では、そっちが代表作として紹介されるかもしれません。



 ◆



 「哲学的理由がありますか?」

 これよりも、随所で挟み込まれる
 「んー。」とか、「もりやさん」のほうが非常に可愛らしかった。
 異国の地に単身訪れた、日本語のたどたどしい「幼さの残る風貌の」少女は
 えも言われず愛すべき子だなーという印象を全編通じて振りまき、
 彼女を囲う学友一同と共に、読者もまた愛おしさを覚えることになります。
 
 そのユーゴスラヴィア人がなぜ日本に来れたのか、
 なぜ二ヶ月で戻ることになっていたのか、なぜそれに抗えなかったのか、
 彼女の背景は彼女自信の口で大まかに語られるものの全容は知れません。
 少女だけが知る遙か彼方の異国、彼女の故郷は、
 物語が繰り広げられる日本の田舎町からは決して及びもつかない
 半ば空想の国のような雰囲気を醸して描かれます。
 マーヤが住んでいるのはつまり、妖精の国なのでした。
 妖精の国のことを良いとも悪いとも、
 対岸よりももっと離れた日本では到底知る由がありません。
  
 彼女が別れ際に、守屋君の決然たる表明に「観光」と答えたこと。
 「あなたよりよくわかっているんですよ」と、言葉を更に重ねたこと。
 エンディングまで本を読み終わった後で、この言葉が胸に鮮明に蘇ります。
 彼女が一体どんな気持ちを胸に隠してこの言葉を守屋君に残したのか、
 彼女が一体何を悟って、この言葉で守屋君に「さよなら」を告げたのか、
 想いは無限に馳せることができる。

 その答えが極めて単純平易だから、切ない。
 少なくとも私は、この言葉に「哲学的な理由」なんてないと感じた。
 ただひたすらに普通で、純粋で、胸が痛むほど切ない理由だったと感じる。
 ……ううむ、ようやく冷めてきた目頭がまた加熱してきて、実に困る。

 
 という、マーヤに対する私の感情。
 さてしかし、この作品で改めてキャラクターの主役性に目を向けると
 もう一人見逃せないのはやはり、太刀洗ということになるのでしょう。
 作中いくつもの言動を守屋君と共に見聞きしてきた私は、
 ラストシーンの言葉で守屋君と共にすっかり威に打たれてしまった。
 畢竟、マーヤに対しても太刀洗に対しても、
 この作品は終始、読者の感情が作中の人物とよくシンクロするのです。
 楽しかったシーンも、それが終わった後のシーンもすべて含めて。
 この本は主に列車の中で読んでいたので当然座っていたのですが、
 感覚としては雨の中に立ち尽したような、そんな読後感です。
 「自分は彼女の何を理解していたのか?」
 
 ……それでも、静謐な美しさを失わないエンディングが好きでした。
 最後に素直に、妖精にさよならを言わせてくれた空気が良かった。
 ただそれは作品の趣向や技巧がそうさせたのではなく、
 マーヤの「人柄」が最後に生きてくれただけのこと。
 この作品の凶器はマーヤであり、それを癒す救いもまたマーヤでした。
 
 
 読み終わった後、起承から転結まで、この作品をトータルで振り返ると
 中盤までのゆったりとした空気は半ば恨めしくもある。
 もちろん、それがあってこそ、マーヤとゆかいな仲間達の
 かけがえのない二ヶ月間の記録になるのですが、読者にはとても残酷です。

 ストーリーが残酷ということを言いたいのではありません。
 物語というものが時に残酷だなあという、
 より素人のような感想を敢えて言葉に出す気分になっただけです。

 
 想像とはだいぶ違うストーリーでエンディングに辿り着きましたが、
 切ない名作として記憶に刻まれました。あとユーゴ情勢に詳しくなりました。

 ちなみにアニメで追っていた古典部シリーズと本作の作風を見て、
 この作家さんにひとかたならず興味が湧いてきました、という軽い余談。
 機会があれば、次の作品をと思います。
 
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